（4）８月２７日（水）　……　ホータン

09:00……招待所の周辺

気温19.8℃。さわやかな空気のなか、朝飯前にホータン文化宮前まで歩いた。ちょうど町の活動が始まろうとしていた。道路を清掃し、水を撒いている。子どもたちは肩にかばんを下げて学校へ。街頭のスピーカーからウイグル語の放送が流れていて、ラジオ体操のような音楽もあった。かつて日本の田舎では朝から有線放送が流れていたりしたが、雰囲気はあれにそっくりだ。
　道端で香菜（シャンツァイ）を売っていた。客が自転車やロバでやってきて、大きな束で買い求めていく。私たちの料理にもふんだんに使われているところをみると、こちらの人たちは香菜が入らない料理は味気ないと感じるのかもしれない。
　油条（ヨウティアオ）を揚げている店があった。近所の人たちが何本もまとめて買っていく。私の腹の虫も黙ってはいない。２本で0.1元。安くてうまい！

11:00……和田絲綢廠（絹織物工場）

市街から9km。ホータン地方では1000年前から絹を織ってきたが、解放後、浙江省や江蘇省から技術者を入れ、機械化と技術の向上をはかった。和田絲綢廠は1953年の創業で、西北地区（新疆、甘粛、青海、寧夏、陝西）最大のシルク工場ということであった。織機は152台設置され、生産任務（目標）は年間106万ｍ。
　製品は主に輸出に回されていた。輸出先は、日本、アメリカ、オーストラリア、西ドイツ、イギリス、イタリア、東南アジア諸国など14か国。一定量は、少数民族のために新疆ウイグル自治区内で販売される。機械化により織物技術は向上したものの、繭生産の技術が遅れているため絹の質において改善の余地がある、というのが工場長の率直な話。
　工場直販のシルク生地は１ｍ当たり7.5元。女性の白いドレスは20元だったが、同じものが北京では50元だそうである。

13:10……イヤリカ・ダム

和田絲綢廠から17km。砂漠の中に広大なダム湖がある。白玉河の水を貯めて地域の灌漑に使っているのである。この近辺の砂は非常に細かくて、まるで粉のよう。カメラにとっては大敵だ。
　ここまで行く途中に、さほど広くはないが水田があった。青々とした稲が風にそよいでいるのは驚きだ。いくら灌漑施設があるとはいえ、水が大量に必要な稲をこんな乾燥地で育てるのはたいへんな苦労に違いない。胡楊やナツメの木が、水路の日陰と風除けのために植えられていた。稲は日本の水田のように整然と並んではいなかったから直播きに違いない。砂漠の米はどんな味がするのだろう。
　水田の近くにはいくつも溜池があり、体長20cmぐらいの魚を養殖しているということだが、どんな魚かわからなかった。上空に鷹が舞っていた。ガイド君はこの魚を狙っているのだと言った。

14:30……招待所

昼食。一般に14時から16時半ぐらいまでは昼寝の時間であり、商店も閉じて、町は静まり返る。
　このとき、新たな問題が起きていた。翌日、アクスへ飛ぶ飛行機の座席が人数分確保できなかったというのである。信じられないような話だが本当のこと。仕方がないので、翌日の先発組と翌々日の後発組に分かれることになった。くじ引きで、私は後発組を引き当てた。

17:00……ヨートカン（約特干）遺跡

市街から11km。３世紀ごろから10世紀末にかけて栄えた于てん国の主要地の遺跡。ここが都であったという説もあるが、まだ定かではないとも言われる。10km²の広さがあるそうだが、すべて田畑の下３〜６ｍの地層に埋もれているので、侘しげに立つ看板がなければ一帯が遺跡とは気づかないだろう。つまり、ただの農地にしか見えないわけだが、それでも私たちが行った（1986年の）数年前まで、その看板以外は写真撮影禁止だったという。農地を流れる水路から陶器の破片などが見つかっているが、発掘の計画はまったくないという話だった。その後どうなっただろうか。

17:45……チャルバシュ

ヨートカン遺跡のすぐ近くの村。樹齢500年というクルミの大木があった。幹には子どもが中を登っていけるぐらいの空洞ができているが、まだ葉が茂っていたし実もなるそうである。
　その脇にイスラム教徒の墓地があった。村人たちが小さなモスクの修繕をしていたが、みんな手を休めて突然現れた妙な一団を見物しはじめた。この村には、アフン（イスラムの長老、住職）のもと、150家族700人が暮らしているそうだ。村人は全員この墓地に埋葬されるので、モスクの工事に参加するのは村人の義務だという。まったくの成り行きであったが、かれらは異国人で異教徒である私たちがモスクの中に入ることを快く許してくれた。

19:00……和田貿易市場

ホータンのバザール。衣料品、食料品、機械部品等々、品物ごとにコーナーが分かれている。たちまち人垣に取り囲まれてしまった。大部分は子どもだが、大人も混じって自分を撮れとアピールする。本当に陽気で、好奇心が旺盛だ。陽気といえば、にぎやかなラッパの音につられて見に行くと、荷台に人を満載したトラックがバザール会場を横切っていくところだった。結婚式に向かう親戚筋といったところか。

20:00……清真寺

門に描かれた模様が美しかった。数百人が礼拝できる広い中庭がある。清真（チンチェン）とは漢語でイスラム教のこと。もともと「純潔」という意味だが、明代末からイスラム教徒が使うようになりこの呼び名が一般化したそうである。（小学館「最新中国情報辞典」）

21:30……招待所

夕食後、ホータン歌舞団の歌と踊りを楽しんだ。たしか専門の歌舞団ではないという話だったが、演奏も踊りもじつにすばらしかった（のちにクチャやコルラでも歌舞団を見たが、このときの歌舞が一番よかったと思う）。
　演奏曲目(1)「我らがリンゴ園」演奏　(2)「我が恋人よ」歌　(3)雲南省の少数民族の踊り　(4)「私を信じて」ウイグル族の踊り　(5)「神秘なラクダの背」（映画主題歌）男性ソロ　(6)「恋人よいらっしゃい」ウズベク族の踊り　(7)「勤勉な若者」ウイグル族の踊り　(8)「ソーラン節」（北海道民謡）　(9)「ニバッテ」（意味は不明）ウイグル族の踊り　(10)「アトシュの踊り」キルギス族の踊り（アトシュはカシュガルの北方50kmにあるクズルス・キルギス自治州の州都）